エリクソンの発達段階とは|概要や特徴を徹底解説

人間にはいくつかの「発達段階」があると考えられています。発達段階の区分や名称は学者によって異なっており、心理学者エリク・H・エリクソン(1902〜1994)は、乳児期・幼児前期・遊戯期・学童期・青年期・初期成人期・壮年期・老年期の8つに分ける発達段階を提唱しました。

エリクソンの発達段階論は、子どもならではの特性を理解して接するために必要な考えであるため、保育資格の試験でも頻出する内容にもなっています。子どもを持つ親も人間の発達段階を理解して、子育てに活かせるようにしていきましょう。

心理学者エリクソンの生い立ちと人物像

エリクソンは、父親不明、デンマーク系ユダヤ人の母親を両親として1902年にドイツ帝国のフランクフルトで生まれました。エリクソンが3歳の時に母親が小児科医と結婚をし、再婚相手を実の父親だと言われ育ってきましたが信じてはいませんでした。

また、エリクソンは金髪に青い目で他と異なる見た目だったため、ユダヤ人社会・ユダヤ教会からは「異邦人」、地元の学校では「ユダヤ人」と呼ばれ、二重の差別に合いアイデンティティに苦しんでいました。この頃の経験が後に心理学者としての経験に影響していたと考えられています。

エリクソンは、ギムナジウムビスマルク校(中等教育機関に相当)を卒業後、画家を目指して芸術学院に進学するものの卒業はせず、放浪生活を送っていましたが、友人に紹介されたアンナ・フロイト(精神分析の創始者・ジークムント・フロイトの娘、児童精神分析の開拓者)が設立したウィーンの学校で教師として活躍、周囲から才能を認められ児童分析家となりました。

ドイツで1933年にヒトラー内閣が成立すると、反ユダヤ主義を恐れて渡米、アメリカで精神分析家・児童分析家としての名声を確立します。イェール大学、カリフォルニア大学バークレー校、ハーバード大学の教員を歴任する中で、精神分析に文化人類学を取り入れることを思いつきます。その成果を反映したのが、1950年に出版された「Childhood and Society(幼児期と社会)」であり、発達心理学の古典的名著です。

現代において「アイデンティティ」や「モラトリアム」という心理学用語が一般的に使われるようになったのは、「アイデンティティ」の概念、心理社会的発達理論を提唱したエリクソンによるものだと言えるでしょう。

MEMO
文化人類学とは、人間の生活様式全体(生活や活動)の具体的なありかたを研究する人類学のひとつです。

エリクソンの心理社会的発達理論とは

エリクソンが提唱した理論は「心理社会的発達理論(psychosocial development)」と呼ばれており、人間の心理は周囲の人々との相互作用を通して成長していくというものです。

心理社会的発達理論の特徴は、人間の発達段階を8つに分けている、各発達段階で「発達課題(development task)」もしくは「心理社会的危機(psychosocial crisis)」に直面する、人間は心理社会的危機を乗り越えることで「力(virtue)」を獲得できる、という3つがあります。具体的に心理社会的発達理論における8つの段階を順に見ていきましょう。

エリクソンの発達段階1:乳児期

0歳〜1歳半は「乳児期(infancy)」という段階に区分されます。乳児期に直面する心理社会的危機は「信頼感対不信感(trust vs. mistrust)」です。

乳児期に最も育つのは「基本的な信頼感」です。周囲から望み通りに愛されることや、母親との一体感を経験することで人への信頼が育まれます。

赤ちゃん(0歳〜1歳半)は当然ながら無力でひとりで生きることはできません。お腹が空いたからミルクが欲しい、お尻が気持ち悪いからオムツを変えて欲しい、寂しいから抱っこしてほしいなどの感情を泣くことで伝え、それら欲求を満たしてくれることで「きっと誰かに助けてもらえる」という「希望・期待(hope)」を得られます。

反対に誰からも望みを叶えてもらえなければ、「誰も助けてくれない」という不信感や、自分に対する無力感、自己不全感を身につけてしまうようになります。

エリクソンの発達段階2:幼児前期

およそ1歳半〜3歳は「幼児前期(early childhood)」という段階に区分されます。幼児前期に直面する心理社会的危機は「自律性対恥・疑惑(autonomy vs. shame)」です。

幼児前期に最も育つのは「自律性(衝動をコントロールして自らを律する力)」です。積極的にチャレンジの機会を与えて「できた」経験を積み重ねさせることで自信が育まれます。

幼児前期は、食事やトイレのトレーニングなど最初のしつけが始まるタイミングです。親が積極的にチャレンジの機会を与え、時には適切なタイミングで手伝ってあげることで、「さらに色々なことに挑戦したい」という「意欲(will)」を得られます。

反対に子どもが失敗しないように全て親がやってしまうと、当然ながら「自分でやってみよう」という自律性は育ちません。また、子どもが失敗するたびに叱り続けてしまうと、子どもに羞恥心を覚えさせてしまいます。

エリクソンの発達段階3:遊戯期

3歳〜5歳は「遊戯期(play age)」という段階に区分されます。遊戯期に直面する心理社会的危機は「自発性・積極性対罪悪感(initiative vs. guilt)」です。

遊戯期に最も育つのは「自発性や積極性」です。時と場合に応じた振る舞い方を教えることで自分はなんのために行動をとるのか意味が持てるようになります。

遊戯期は、好奇心のままに挑戦を繰り返すことで自身が体力・知力・能力を確認しています。子どもの挑戦に対して、怪我の恐れがある行為は制止、公共の場などでは好き勝手しないようしつけながら自発性を尊重することで「目的意識(purpose))」を得られます。

反対に子どものあらゆる挑戦に対して、「駄目」や「静かにして」など過度に注意してしまうと、「やりたいことをやることは悪いこと」「知りたがることは悪いこと」という罪悪感を覚えるようになってしまいます。

エリクソンの発達段階4:学童期

5歳〜12歳は「学童期(school age)」という段階に区分されます。学童期に直面する心理社会的危機は「勤勉性(完成)対劣等感(industry vs. inferiority)」です。

学童期に最も育つのは「勤勉性」です。社会的に期待される活動(小学校から出される宿題など)に自発的・習慣的に取り組む中で「能力(competency)」が磨かれるようになります。

学童期は、小学校に通う時期と重なります。学校内での集団行動や友だちとの交流の中で、自分より優れている友だちには尊敬を感じ、自分のほうが優れていると思えば、健全な誇りや自信を持つことができます。

反対に親が子どもを友だちと比較して劣等感や優越感を煽ってしまうと、他との優劣ばかりを意識するようになってしまうため、他を認め合い、ともに高め合うことを教えてあげましょう。

エリクソンの発達段階5:青年期

12歳〜18歳は「青年期(adolescence)」という段階に区分されます。青年期に直面する心理社会的危機は「アイデンティティー対アイデンティティーの混乱(identity vs. identity confusion)」です。

青年期に最も育つのは「客観的な自己認識」です。自分を客観視、自分は何者かを考えて自分の本質と他者との違いを知ることができるようになります。

思春期にあたる青年期は、自分がやりたいように振る舞いつつ、他者から認められる中で「自分とはどういう人間なのか」を自覚でき「忠誠(fidelity)」を得られるようになります。忠誠とは具体的に自分で選んだ価値観を信じ、それに対して貢献しようとすることを指します。

アイデンティティーを確立するためには、自身の可能性を取捨選択するために様々な挑戦が必要です。そのため、エリクソンの発達段階説における第5段階「青年期」には、アイデンティティーを隔離するまでの猶予期間として「モラトリアム」が認められていると考えられています。

エリクソンの発達段階6:初期成人期

18歳〜40歳は「初期成人期(young adult)」という段階に区分されます。初期成人期に直面する社会的危機は「親密性対孤立(intimacy vs. isolation)」です。

初期成人期に最も育つのは「親密性(エリクソンの定義では、相手に自分を賭けても自分を失わない関係)」です。他者と親密な関係を結ぶことができるようになります。

初期成人期は、友人・恋人・配偶者などと互いに信頼できる安定した関係を長く続けることで「愛情(love)」を得られるようになります。しかし、青年期で自己を確立できていない場合、自分を失う恐怖に支配されるため、他者と積極的に関わることができず孤独に陥ってしまいます。

エリクソンの発達段階7:壮年期

40歳〜65歳は「壮年期(adulthood)」という段階に区分されます。壮年期に直面する社会的危機は「次世代育成能力対停滞(generativity vs. stagnation)」です。

壮年期に最も育つのは「次世代育成能力」です。次世代育成能力はエリクソンの造語で、前の世代の文化を引き継ぎ、自分の代で新たな創造を加え、次の世代に譲り渡すことを意味します。

壮年期は、上の世代から学んだことを子どもなど下の世代に伝えていくことで「世話(care)」の能力を得られるようになります。特に、壮年期の後半では孫の子守などで次の世代に関わることは精神の健康のためにも非常に大事と言われいます。

しかし、世代間の繋がりを持たなかったり、自分の世代・時代のことだけ考えていると「停滞」と呼ばれる状況に陥ってしまいます。次世代に何を残すか自覚した生き方ができていないと、エリクソンの発達段階説における最後の「老年期」で、自分が存在した意味を見いだせなくなってしまいます。

エリクソンの発達段階8:老年期

65歳以上は「老年期(mature age)」という段階に区分されます。老年期に直面する社会的危機は「自己統合対絶望(ego integrity vs. despair)」です。

老年期は、宇宙・地球・人間のように大きな歴史の流れのなかで、自分の人生の意味を見い出すタイミングです。壮年期までの発達課題をクリアしていれば「賢さ・英知(will)」を得ることができています。

しかし、前の世代から受け継いだものも次世代に残せるものもないと、世代間のつながりのなかに自分を位置づけることができず、自分が存在した意味を確認できず、絶望に陥ってしまいます。

ここまで解説してきたように、エリクソンの発達段階説は人間の生涯全体を網羅しているため、子どもだけでなく、どの世代にも生き方の指針を示してくれます。